昭和バブルと平成デフレ

 まず経済という身近な問題から話を始めたい思います。一国の経済状況、すなわち景気は、個人の生活に密着した問題であるのみならず、国力にも大きな影響を与え、多くのひとにとって関心が高いのではないでしょうか。「失われた20年」などと言われるように平成入り直後にバブルが崩壊して以降日本経済が不振に陥って久しいですが、なぜ日本”だけ”にこうもしつこくデフレ型の景気低迷が続いてきたかという疑問は、実は経済学者にとっても根本的に理由を説明が出来ない不可解な現象と言われています。「景気は気は気分の気」といって景気がいい悪いというのは人々の集合意識が決めていることなのですが、任意の時代の集合意識がどうであるかと言うことを具体的に読み解くことは経済学の範疇では出来ません。人々の集合意識も取り扱うことの出来る西洋占星術を学ぶことで、初めて景気を動かしている根本原理を理解することが出来ます。例えば長引く平成不況やリーマン・ショックが何故起きたかという問いに本質的に答えるには西洋占星術が必要なのです。そして占星術はとても実践的なものなので、国の財政金融政策にしても個人の資産運用にしても、具体的な対策が立てられます。「歴史占星術の部屋 プロローグ」ではまずそのことを明示したいと思います。

昭和と平成の日経平均株価(クリックで拡大)
昭和と平成の日経平均株価(クリックで拡大)

 上に示したグラフは日経平均株価の推移です。昭和と平成の間をえんじ色の線で区切っています。試しに右側の平成を手で隠してみてください。今昭和が終わった瞬間にタイムスリップしたと仮定すると、その延長線上にどのように株価の未来を予測するでしょうか。次に左側の昭和を左手で隠してみてください。あなたが昭和のことを知らなかったとすると、手で隠された過去にどのような株価の歴史を想像するでしょうか。まるで別の二つの株価をつなぎ合わせたかのように、昭和と平成の間には大きな断絶があります。これは実は昭和と平成では日本人の意識構造が大きく変化していることに起因しているのです。

 西洋占星術で人や物事を分析する時には、それらが産まれた瞬間のホロスコープを使います。ホロスコープにはその瞬間の天体現象(天体の位置と位置関係)が記されています。この方法によって昭和が産まれた瞬間、平成が産まれた瞬間の天体の配置から「昭和」と「平成」のそれぞれのホロスコープを作成することが出来ます。「昭和」と「平成」では日本人の意識構造は大きく変化しているのですが、それぞれの時代の意識構造はホロスコープによって分析することが可能です。

「昭和」のホロスコープ
「昭和」のホロスコープ

 まず「昭和」のホロスコープを示します。この「歴史占星術の部屋」で、この図は今後も頻繁に引き合いに出すことになるでしょう。西洋占星術で日本という国を分析するときには一般的に「大日本帝国憲法発布図」や「日本国憲法公布図」といった憲法図がよく使われます。しかし私は日本を分析する際に「昭和」や「平成」と言った元号図は、憲法図と双璧をなすくらいの極めて重要なものと考えています(元号図の重要性を指摘したのは私が世界初だと思います)この「プロローグ」でまずは経済という切り口のみに注目してこれらの元号図を考察します。

 さて昭和図について結論から言えば、経済面で言えば偏差値65以上あると思われる大変に優秀な図です。この図が経済面で優れている理由は次の2点です。

①太陽☉(+金星♀)・月☽・火星♂による地のサインでのグランドトライン

②木星♃と海王星♆のオポジション

 まず①ですが、太陽・月という軸となる天体と火星という野心を押し出す天体が、グランドトラインという複合アスペクト図形を作っています。

 アスペクトとは天体同士が作る角度のことで、天体同士はその角度の特徴に応じた結びつきを持つことになります。360度を整数で分割した角度が重要で、なかでも1で分割した0度(コンジャンクション、合)、2で分割した180度(オポジション、)、3で分割した120度(トライン、三分)、4で分割した90度(スクエア、矩)、6で分割した60度(セクスタイル、六分)をメジャーアスペクトとして重視します(参考リンク:Wikipedia「アスペクト(占星術)」)。

 トライン(120度)はサインでいうと隣4つ目のサイン同士のアスペクトです。隣4つ目は同じ元素(エレメント)同士ですので、元素の目的を共有しており、天体同士の衝突の最も少ない気楽な発展性があります(元素には火・地・風・水の4種類があり、12サインは3つずつこれら4つのサインに割り当てられています 参考リンク:Wikipedia「2区分・3区分・4区分」の4区分)。3つのトラインが組み合わさった正三角形で表される図形をグランドトラインといい、トラインの発展形と考えるといいでしょう。正三角形で表されるこのグランドトラインは、三角形の角のそれぞれの天体がお互いにトラインで結びついています。通常火・地・風・水のいずれかひとつの元素だけで正三角形が作られる特徴があり、その元素の全てのサイン(地の元素なら牡牛座♉・乙女座♍・山羊座♑の三つ全て)により正三角形が作られます。その結果その元素の分野において充足されている状態であり極めて発展的です。昭和図では地の元素のグランドトラインですが、地のサインは物質的な分野を示します。政府の方針(太陽)と国民感情(月)と野心的行動力(火星)が物質的目標に向かって一致団結して加速度的に取り組んでいくという図です。物質的目標が戦前は天然資源等を求め大陸などへの領土進出といった面で、戦後は領土的野心はタブーとなりましたがそれ以外のあらゆる経済的発展という面で遺憾なく発揮されました。

 次に②ですが、木星と海王星のアスペクトを端的に言い表すなら「壮大なビジョン」と「バブル」です。水星から冥王星までの10天体は0(目的)、+(拡大)、-(縮小)に分類すると分かりやすいのですが、木星と海王星はともに拡大の天体に属します。0は目的であり、+でチャンスを拡げ、-で選択するのです。つまり+で視点や選択肢を拡げ、その中で本当に自分にとって大事なもの以外を-で切り捨てることで0という目的に集中するのです。+と-の呼吸作用により、自分の目的が生かされていきます。木星と海王星という拡大天体同士が刺激しあうと言う形ですからこのアスペクトは最も拡大面が強調された形を取りやすいです。曖昧なものであってもこのアスペクトは否定せずに取り込んでいきます。その結果「壮大なビジョン」や「バブル」などと言った膨らんでいく方向で物事が進んでいきます。「昭和」は初期的には大東亜共栄圏などの壮大なビジョンのもとで領土のバブル(大陸や太平洋への領土の拡大)を起こしました。言うまでもなくそのバブルは敗戦によって終焉しました。領土的野心の道を完全に絶った戦後の日本は、日本国憲法第9条のような空想的ビジョンを憲法の理念とすることと引き換えに安全保障をアメリカ合衆国に預け、経済的発展に注力しました。そうしてこのグランドトラインの特性を充分に活用した昭和の日本は、右肩上がりの経済成長を続けたのでした。

「平成」のホロスコープ
「平成」のホロスコープ

 次は「平成」のホロスコープ図です。ここではやはり経済面のみに限定して言及します。前述したように平成不況の原因は従来の経済理論では決して解き明かさることはなく、平成という時代の意識構造を作った「平成」ホロスコープを解明することで明らかになります。占星術において不況の代表的アスペクトといえば土星♄と天王星♅です。土星と天王星のアスペクトは不況に関連していることはこの後にも詳しく述べていきますが、とりわけ地のサイン(または第2,6,10ハウス)でアスペクトを形成しているときにその傾向は顕著です。この平成の図ではやはり土のサインである山羊座において、土星天王星が月を巻き込んだ合(0度)のアスペクトを作っています。土星と天王星の合だけで十分に不況の意味を持つのですが、気分感情を表す天体である月まで巻き込んだことでその意味が決定的に強まりました。「景気の気は気分の気」と言う言葉もあるように景気の冷え込みに気分の関与はとても大きいからです。投資が投資を呼ぶ形で膨らんだ昭和のバブル経済は、平成の始まりとともに刻印されたこの不況アスペクトによって、崩壊が宿命付けられたのです。

 土星天王星のアスペクトを端的に表現すると「リストラ」や「ミニマリズム」です。曖昧なものでもどんどん取り込んで膨らんでいく木星海王星のアスペクトとは対照的に、土星天王星のアスペクトは曖昧なものを整理、すなわり「リストラ」していく堅物のアスペクトです。このアスペクトの作用が土のサインや第2,6,10ハウス上で目立つと投資・人員・賃金の削減→需要・物価・企業収益の低下→さらなる投資・人員・賃金の削減、という「デフレ」、さらにはデフレスパイラル状態の危険が高まります。「平成」のホロスコープも地のサインに天体が多いことからは、物質的センスが欠落しているわけではないのですが、前述のアスペクトによって投資・消費に対する積極的な気分はかなり削がれています。さらにバブリーな「昭和」ホロスコープとのギャップで、「平成」の不況の特徴がより際立つことになりました。このホロスコープの影響は平成が終了するまで有効なので、平成不況の「失われた10年」はいつの間にか「失われた20年」と呼ばれるようになり、世界でも類を見ない長期の経済停滞の閉塞感からはいまだに脱しきれないままです。

 ただし占星術は決定論ではありません。「平成」のホロスコープは、消費マインドや投資マインドが冷えている心理を示しているのであって、不況という結果を示しているのではありません。ホロスコープに示されている先天的な心理傾向に対して、いかなる対策が最適解であるかを見出すのも面白いテーマです。経済問題にしても、どのような国や時代にも万能な経済政策というのはありえず、その国その時代にマッチした政策という個々の最適解があるはずなのです。例えば平成の日本が持つ、世界でもほとんど前例のない根の深いデフレマインドを長いこと誰も見抜けませんでした。長期デフレの原因そのものである「平成」のホロスコープが持っている特殊なデフレマインドという答えを知っている者からすれば、今までの常識から外れた極端な金融緩和策を行っても過度のインフレなど起こりようがないことはわかるのですが、常識に囚われるとインフレ発生という幻影を恐れるあまり慎重になり過ぎて、中途半端な金融・財政政策しか取れませんので、本当に長いこと政策ミスが重ねられてきました。それに対して初めて平成にマッチした思い切った異次元の金融緩和と財政出動により成功したのが安倍晋三政権のアベノミクスです。ケチなひとでも手持ちのお金が増えればいくらかは消費活動を増やすことと似ていて、財政金融政策によって世の中に出回るお金を増やすなどの景気浮揚策はかなり思い切ってやるべきなのです。しかし平成の心理は根本的にケチなので真の意味でデフレマインドを払拭することは不可能であり、改元を待たなくてはならないでしょう。

 政策の話ではなく、私達個人はこうした時代の変化に対してどう行動すればいいのでしょうか。昭和から平成への移行に伴い昭和バブルが崩壊した後、不動産や株式の価値は大きく目減りし、多くの日本人が資産を失いました。もし平成が始まった時点で占星術によってバブルの崩壊からデフレへと至る流れを予期できていたならば(平成が終わりに近づている現在でもこういうことを言っているのは私だけなので、1989年当時にそれを占星術で見抜いた日本人は一人もいなかったかも知れませんが)、例えば不動産や株式などの資産を全て預貯金か現金に換えてしまうことでバブル崩壊から自分の資産を完全に守ることが出来たことでしょう。