昭和図の野心を火星で読み解く

 改めて昭和の図を見てみましょう。プロローグでも述べたように太陽と月という軸となる天体が地のグランドトライン(大三角形)の二角を担う強力な図です。グランドトラインのもう一角を担うのは野心的行動を表す火星♂です。これら3つの角で地のグランドトラインを形成していたのでしたね(金星♀も太陽の一角にいます)。今回分析するのは戦争ですから、当然火星は最も注目する天体の一つになります。火星は他を押しのけてでも自分の野心を通そうとする天体です。「軍隊」は自陣の安全や利益のために敵に立ち向かうことに存在意義があり、最も火星的性質を表すものの一つですから、戦前にはこの火星の役割を軍隊が担う機会が多かったです。ただし、占星術初心者が陥りやすい誤りに対する注意喚起として述べたいと思いますが、ホロスコープ上のパーツを具体的事象に一対一対応で限定するべきではないと思います。それをすると必ず見誤りや見落としを生じます。つまりここでは火星を軍隊に限定してはいけないと言うことです。そうではなく昭和という時代が持つ野心をまず火星の状態で把握することが重要です。この昭和図の火星が表している野心は日本人全体が共有していたものです。その野心を実現すべく一部軍隊が行動を引き受けたに過ぎません。後でみるように日米開戦の主因のひとつがこの昭和図の火星の暴走なのですが、これを「軍部の暴走」と限定すると見誤り・見落としになり、有益な教訓が得られなくなりますので充分な注意が必要と思います。

 さて昭和図の火星が表す野心ですが、牡牛座7度にあり(サインの度数は1度から30度までの”数え度数”で表すので、6.00度から6.99度は7度になります)物質的な野心です。地のサインは牡牛座・乙女座・山羊座の3つありいずれも物質的なのですが、牡牛座はその中でも所有に関連したサインでとりわけ物欲が強いサインです。当時の常識では国家の物質的野心と言えば領土のことであり、昭和になって火星が牡牛座に切り替わってからは領土の利権について外交的に譲歩出来ない欲張りで頑固な性質が強まったと言えます。昭和に切り替わる前の大正図の火星は乙女座8度で、地のサインということでは昭和と共通しています。また度数も昭和図の7度に対して大正図は8度と近いため、昭和図に移行するときの火星の性質自体のギャップはすごくおおきくはありませんが、それでも当然違いはあります。大正図の火星の乙女座の8度はより節制が効いたサインと度数であり、所有欲というよりは防衛心理に軸足があります。つまり強国との対立を回避する安全保障の観点からの協調外交という面では上手く機能していたと言えます。同じ地のサインでも柔軟宮の乙女座と固定宮の牡牛座の違いがここであらわれているわけです。つまり昭和図で頑固な牡牛座火星になることによって利権に関して他国と妥協するのが大幅に難しくなりました。

 さらに注目すべきは度数です。7度はどのサインであってもそれぞれのサインのテーマに対して「落差の意識化」を表します。牡牛座7度の場合を考えてみましょう。牡牛座というのは物質的所有に関連したサインということは既に述べました。最初の所有物であり、かつあらゆる所有の前提となるものは自己の身体です。そもそも所有というのは五感を通じて実感するものであり、その五感は自己の身体を通じて受け取るからです。そして身体が遺伝的な出自に規定されるものであるために、血統や遺伝と関連した民族性というものも牡牛座の扱うテーマになります。牡牛座7度は牡牛座的意味での「落差の意識化」、すなわち持てるものと持たざるものの落差を意識化する度数です。これは他人の持ち物が羨ましいという単純な気持ちで出ることもあるし、貧富の格差を問題にすることもあります。しかしなにより民族的な差別問題にとても鋭敏であることが牡牛座の7度の最大の特徴です。牡牛座7度のサビアンシンボルは「A woman of Samaria(サマリアの女)」。サマリア人はユダヤの一派でありながらもアラブと融合した独特の宗教形態を持つため異端視されてきた民族です。数奇な運命に翻弄された被差別民族の象徴として描かれています。「サマリア」は単なる象徴で、実際の例ではサマリアではなくそれぞれの時代に存在する身近な差別問題に関心を抱くことになります。大日本帝国が被差別民族としてのアジア人に目を向け、「大東亜共栄圏」「五族協和」と言ったアジア民族結束のスローガンを用い始めたのは昭和になってからです。むしろもともとは対極的な「脱亜入欧(後進世界であるアジアを脱し欧米列強に肩を並べること)」が大日本帝国の目標であり、台湾や朝鮮の併合も欧米列強に伍していくためという側面が大きかったのです。それが昭和に入ってから欧米諸国からのアジアの解放というのが軍事的スローガンになってきた。それは昭和図の火星が牡牛座7度「サマリアの女」であることに起因しています。全世界共通の潮流としては1910年台から1930年台にかけての冥王星蟹座時代に伴う民族意識の高揚という前提があるのですが、日本が「欧米からのアジア諸国の解放」という歴史を作ったのは、昭和図において牡牛座7度「サマリアの女」に火星を持ったからです。

 この火星は第7ハウスにあるので、自国で完結するということはなく他国との力関係の中で火星のアイデンティティを確認していく面が強まることになります。

 さらに上記でみた火星の性質を太陽と月がグランドトラインでスムーズに擁護するというのがこの昭和図の特徴でした。火星が敗戦によって徹底的に折られるまでは、国家や国民は一丸となって火星的野心を後押ししていたわけです。

 

 以上が昭和図の火星的野心の説明になります。しかし、これだけでは1941年12月8日に大日本帝国が無謀にも勝ち目のない対米開戦に突っ走っていった理由はまだ述べられていません。それを解明するには次項で説明するトランジット分析が必要になります。

 

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